以前は、歯科治療業界では初期虫歯を積極的に削って埋めていたが、ここ20年ほどはあまり削らず丁寧に自宅で歯磨きをすることで再石灰化を期待するという方針に移っている。結局治療したところが再発し続けるという現象が知られたためである。しかしながら、では実際に歯磨きをしていたら虫歯が治っていくのかという問題はあり、そもそも口腔衛生がいまいちな衛生習慣の患者だから虫歯ができているのである。そこで道具を根本的に変えるのも一計。
ここ10年ほど電動歯ブラシが改良されて、安価かつ使いやすく効果的な製品が出そろっている。端的にはフィリップスの製品が定番といった印象を受ける。内臓電池は製品改良によって変わったりするが、旧製品のリチウムのものもまだあり、こちらの方が人気がある。とは言っても、筆者の家では2年に一本ほどのペースで壊れるので、どちらでも良いと思う。歯磨き粉を使う必要も(泡立ち過ぎるなどの理由もあり)常時使う必要も手磨きほど無いとされる。30年前に使ったときは電動歯ブラシも手で磨くほどはうまく磨けなかったが、現在では改良されむしろ手ではあまり綺麗に磨けないといった印象である。手で長時間ごしごし擦っても歯茎を傷めるので、筆者は、数時間ごとに電動歯ブラシ20秒程度使う方が口内の雑菌の繁殖が抑えられる印象を持っている。
面白い道具としては、近頃はジェット水流の製品が出ている。噴霧するとか磨くとかいうよりも、歯に水を強力に打ち付けて研磨するといった感じ。歯の表面とはこれほどつるつるだったのかという感想を抱く。これまでに磨いていたのは歯ではなくて歯の表面に付着したミネラル分だったのであったという失望もある。
これもかなり安価。近年は、歯科業界は虫歯予防に力を入れる方向にシフトしており、定期健診として様々な器具を使って歯石を取ったり磨いたりする枠を長時間取るようになってきている。(基本的にどれだけ自分で丁寧に磨いていても歯科医院に通う習慣は必要なものである。)付着した歯石の部分などが虫歯になっていくため、現在では歯科医の腕と同じくらい歯科衛生士(に与えられた枠)が重要になっている。そこでは、超音波ブラシや水圧のジェットなどで歯間を貫通させるコースが見受けられ、先端が尖った器具で流血させながら引っ掻いてみていた時代とは隔世の感がある。もちろん、専門家の使う機械は高性能である一方で、自分ひとりでは使えない。出力が大きいため歯茎に当てると怪我をしてしまうほど強いからである。
これらは自宅でも使えるように作られた製品であり、もちろん強い出力を出そうと思ってもハンディー・サイズでは歯科医院のような出力は出せないわけであるが、では玩具なのかというと実際に使ってみると出力はかなりある。歯間を水圧で通すし、指に当てていると痣になるほどである。目にうっかり当てても失明はしなかったが、一応、大人が気を付けて使ってほしい。筆者の場合は、これを使うと初期虫歯の色素沈着(要するにちょっと黒くなって一般に虫歯だねと言われるもの;最近では明確な浸食の無い初期虫歯を色素沈着として扱い、進行したC1以上の虫歯を区別して話すようになっている)くらいは、数日から数週間程度で少しずつ剥がれて行って面白かった。いわゆる歯科業界の期待する「丁寧に歯磨きすれば再石灰化が追い付いて初期虫歯くらいなら修復される」という現象の一種のようである。歯磨きでは無理だなとお考えの方は一度試してみるのもよいと思う。なお、使っている人たちは、この製品だけではだめで一応歯ブラシで磨く必要もあると言っている。筆者もジェット水流だけ使用した場合と、電動歯ブラシを併用した場合の両方で過ごしてみたが、雑菌が取れる部位が微妙に異なるらしく、磨いてから雑菌が増殖してくるペースが異なる様子がある。併用の方が良い。併用の方が良いがジェット水流だけでもとても状態は良い。歯磨きが嫌になった人も、歯のメンテ自体を好きになれる製品とも言える。